だから今のボクがいる
介護職になって間もない頃、手際の悪い私の介助にいちいち文句をつける入居者がいた。片麻痺を患う彼は生活動作に介助を要するものの認知症はなく、容赦ない罵倒を受けた。正直腹が立ったが、仕事として給料をもらっているにもかかわらず、不手際を指摘される自分の未熟さは否めない。文句は言われても冷静に考えれば当然の指摘を受けているだけ。いつか、「認めさせてやる!」そう思って関わり続けた。
そんなある日、彼は突然帰らぬ人となった。「言い逃げかよ…」と、どこか空虚な気持ちを感じて数日、彼の家族が退去の挨拶に見えたときのこと、私の上司が彼の家族に話している内容が耳に入った。「彼が亡くなる数日前、アイツ(ボクのこと)は、いい介護職員になるはずだ、と言っていました。いろいろ厳しいことを言われたようですが、彼が認めていたからこそだと思います」と。
いまでも、ふとそのことが頭をよぎる。そして亡き彼に問いかける。
「今のボクはあなたの想いにこたえられる仕事ができていますか?」
当然、彼からの返事はない。これからもあるはずがない。
だから自分で胸を張って言うしかない。
「今のボクなら文句は言わせませんよ!」